ネタ披露

秋田県 ペンネーム・TSUNAMU さんからの投稿作品
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昼の連続ラジオ小説 第6話 新年スペシャ
「新畑任四郎 VS 死協の黒岩さん」



新畑
「えー、皆様、新年あけましておめでとうございます。

よく警官が、事件の当日にパチンコやゴルフをやっていて問題になることがあります。
でもよくよく考えてみて下さい。
本来、警官は平和であることを望んでいるのです。
平和であると思えたからこそ、パチンコやゴルフに励んでいるのではないでしょうか?

そういう私も、昨日、仕事中にコーヒーを豆からひいて飲みました。
カップやコーヒーメーカーに指紋がつかないように手袋をはめてなどと、そこまで気がまわりませんでした。
正月休みボケからはまだ完全に抜け出せていないみたいです。

さて今日はおもしろいゲームをしましょう。
ここに2枚のトランプがあります。
このトランプの、どちらが数が大きいか皆さんに当てて欲しいのです。
もちろん勘に頼るもよし、しかし、簡単な質問を受けつけることにします。

はい、そこの方、『今日の朝ご飯は何を食べたか』ですか?
はい、今日は、ご飯と味噌汁、玉子焼きと納豆を食べました。

はい、奥の赤いセーターを着てる方、『今日は何時に目覚めたか』ですか?
はい、9時半に起きました。
ええと、では、そろそろ質問を終わりにして、実際に当ててもらいたいと思います。

それでは、手前にいる茶髪のおねえさん、この2枚のトランプのうち、どちらの数が大きいと思いますか?
はい、右側ですね? おねえさんから見て右、はい、開けてみたいと思います。
ハート10です。 10というのはかなりいい線いってると思いますよ。

では、もう一つの方を開けてみます。スペードの10です。
ええ、少々いじわるなゲームをしてしまいました。
しかし、今日のお客さんはいいセンスをしていますよ。
質問の時、トランプに関する話は一切しなかった。

もし、『どちらのトランプがどれくらい大きいですか?』とか『2枚のトランプは赤と黒のどちらですか?』などと、トランプの話をするようだったら、それは私の術中にはまります。
真実とは案外遠くて関係のないようなところにあるものです。

『今朝は何を食べたか』という質問と、『今朝は何時に起きたか』という質問に、実は私は嘘の答を出しました。
私は今朝、食パンと牛乳とヨーグルトを食べました。
それは私の胃を解剖していただければわかると思います。

そして、『今朝私は何時に起きたか』という質問ですが、私は本当は6時半に起きました。
今、現在は11時ですが、私の家から9時半に出て、11時にここにたどり着くのはとうてい無理なんです。
今の2つの質問で、『私は嘘つきだ』というヒントを得ることができたならば、このゲームの裏を見破ることができたかもしれません。

前置きが長くなってしまいましたが、今回は大学を舞台にした話です。
大学といえば、学長や教授の座をめぐった殺人事件、教授の学生に対するセクハラ事件などがありますが、今回は、それらの事件などと比べれば、ほのぼのしたものと言えるかもしれません。
しかし、事件は事件、そしてほのぼのの裏に、ものすごい残酷さが待っているかもしれません。」



新畑 「あの、すいません。ここは江戸農工大ですよね。
地図をもらって自転車で来たのですが、どうも方向音痴なもので。
ここの死協にいる黒岩さんという方にお会いしたいのですが。」

黒岩 「はい、黒岩は私ですが。」

新畑 「わぁ、グットタイミングだ。今話題の黒岩さんですよね。
死協の黒岩さん』、私も遅ればせながら読ませていただきました。
私が特に感動したのは、『ある事情でパソコン30台を、ケーブルでつないで使いたいのですが、どう接続したらいいのかわかりません』という質問です。

それに対する黒岩さんの答、
『パソコンも30台もあれば、疲れていたり、病気のパソコンもあるはずです。そんなパソコンはどうか休ませてあげて、元気なパソコンだけ使ってあげて下さい』
というやつです。いやぁ、なんとも面白いことを考えなさる。
私も組織に属していて、部下がいるのですが、どうしても調子の悪い人間がいたりするんですよね。

名乗り遅れましたが、わたくし、新畑任四郎といいます。刑事をやっています。
実はですね、警察でも『ひとことカード』というのを導入しようということになりまして。
そしてなぜか、普段は殺人事件ばかりを扱っている私が担当ということになったんです。

やれとは言われたものの、なにがなんだかさっぱりわからない状況で、黒岩さんの本も読ませていただいたのですが、ここは一つ、本人に直接聞いてみようと思いまして。
本人のプライベートには踏み込まないというのが、黒岩さんの周りの方のルールらしいのですが、やはり私一人の力ではどうすることもできないので。

ええとですね、いずれは、『ひとことカード』のカラクリというか、秘訣というのもうかがいたいと思っているのですが、まずは『ひとことカード』に答える感覚というのだけでも軽くつかんでおきたいと思いまして。
部下の昔泉というのに、いくつか質問を考えさせておきましたので、今から黒岩さんに答えてもらってもいいでしょうか?」

黒岩 「はい、でもあまり時間がないのですが、よろしいですか?」

新畑 「わかりました。手短にいきたいと思います。
まず最初の質問は『今、100円しか持ってないのですが、どうしても駄菓子を食べたいんです。何を買ったらいいですか?』というものなんですが、すいません、こりゃまた変な質問だ。
この質問を考えた部下の昔泉という男、どうも出来が悪いもので、こんな質問でもよろしいですか?」

黒岩 「全然かまいませんよ。死協にくる質問の中にも、死協にまったく関係がなかったり、時には深刻な身の上相談もあったりするんですよ。
ええとですね、今の質問に答えるとこんな感じになります。

『100円ですか?大人になると100円なんてちっぽけな額だと思ってしまいますが、子供の頃を思い返して見て下さい。
なんであんなに100円というのは輝いていて、重みがあって、夢があったのでしょうか?
100円で買えるものに無限の広がりがありましたよね。
あの頃の100円というものを、今の私たちは忘れてしまっているのではないでしょうか?
今すぐ100円を使ってしまうこともできるのですが、ここは1つ、100円というものをもう1度見つめ直してみることをお勧めします。
もちろん、やっぱり100円を使いたいということであれば、いつでも死協へどうぞ。いろんな駄菓子を用意しておきます。』

こんな答えでよろしいですか?」

新畑 「いやぁ、すばらしいお答えです。あんなへんてこな質問でも、いい答とセットになったならば、救われるもんなんですね。
では次の質問、これなんですが。『僕はラグビー部で、付き合っている彼女がいるのですが、愛情表現で彼女にタックルをしたくなります。どうしたらいいですか?』
すいません、こんな質問でもよろしいですか?」

黒岩 「大丈夫ですよ。ええと、答はこんな感じです。

『彼女にタックルですか・・・。それはやはりちょっとやりすぎだと思います。
でもよくある風景で、彼女が彼氏に耳かきをしてあげるというのがありますよね?
どうしても、タックルをやめることができないならば、彼女に、耳かきのことを例えで話してみるのはどうでしょうか?
立場は逆だが、俺はお前に耳かきをしてあげてるようなものだと。ちょっと痛いが我慢してくれと。
でもまずは、タックルをやめられるよう心がけて下さい。』

私にはこれくらいしかアドバイスができません。」

新畑 「すばらしい。では最後の質問、いきますよ。
『私には付き合っている彼氏がいるのですが、先日、彼氏に二股をかけられていることに気付きました。
今まで二股をかけられていて気付かなかった自分が情けないし、悔しいし、彼氏も憎い気持ちでいっぱいです。黒岩さん、どうしたらいいですか?』

この質問だけは昔泉じゃなくて、同僚の婦人警官に考えてもらいました。
同じ人間ばかりに質問を考えてもらっていたら内容がかたよるような気がしたので。
黒岩さん、どうですかね?」

黒岩 「いやぁ、難しい質問ですね。でも、ここまで複雑じゃないにしろ、恋愛に関する質問も多いんですよ。では、私なりの答を。

『それは大変でしたね。彼氏に本当の気持ちは確認したのですか?
人というのは、結婚する時よりも、離婚する時の方が何倍も体力をつかうといいます。
もし、このまま彼氏と付き合うとしても、別れてしまうとしても、あなたの幸せを陰ながら祈っています。』

すいません、最後の質問はやはり難しかったです。」

新畑 「いえいえ、十分です。ところで今の質問の答の中に、若干気になるところがあったのですが」

黒岩 「はい」

新畑 「まず最初の100円の質問なのですが、もし金額が100円じゃなくて、5円でも10円でも、仮に1万円でも100万円でも、あなたはお金を使うことをとめたのではないでしょうか?
昔のことを持ち出して、夢がどうこうと言っている、黒岩さん、あなたが一番お金に執着しているんです。
過去に借金をしたとか、株で失敗したとか、そうではないですか?
そう推測しなければ、100円で話があそこまで広がるなんて考えられない、つながらないんです。」

黒岩 「仮にそうだとしても、それがどうだというのですか」

新畑 「そして2問目のタックルの話です。
タックルをされている彼女の身になれば、多少は痛みを想像してしまうものです。
それを何事もなかったかのように淡々と答を述べられた。
質問に答えるのに慣れているといわれれば、それまでですが、あの顔はあきらかに犯罪者のものでした。」

黒岩 「ひどい。言いがかりだ」

新畑 「そして最後の質問です。あれは婦人警官が作った質問と言いましたが、本当は私が作ったものです。
そして私が注目していたのは、答の内容ではなく、答えるか答えられないかです。
あんな難しい問題、答えられないのが普通です。
よって答えられなければシロという可能性があったのですが、私は、タックルの質問の時点であなたがクロだということは確信していた。
だから最後の質問も答えるとふんでいた。私の頭の中で描いていたものが現実となったわけです。」

黒岩 「じゃあ私は一体、何の罪を犯したというんだ?」

新畑 「一番軽いものからお教えしましょうか?
たぶんあなたは、詐欺をはたらいている。
私、『死協の黒岩さん』を初めて読んだ時から気になっていたんです。
世間の人はあなたのことを、機転がきいているなどと褒めますが、あの文章、詐欺をしている犯罪者と同じ匂いがする。いわゆる紙一重というやつです。

あなたが有名にならなければ、あなたは犯罪者ということはわからなかった。
あなたは、世間のニュースにうとい私にさえ知れわたるほど有名になってしまった。それが全てです。」

黒岩 「では今から警察に」

新畑 「いえ、今はちょうどお昼休みで死協も混む時間帯でしょ。
私は学食でカレーを食べて待ってますので、お仕事終わらせちゃって下さい。」

第6話 完