とっさのひとこと

今日は、とっさに英語なんて出てきやしないことを実感しました。

夕方。いつものように新刊をチェックし、目当てのモノがすんなり手に入ったことで鼻歌交じり上機嫌だった私。さあ、バイトも終わったし、家に帰って読むか、と息巻いて書店から出るなり、出口に面した道路から奇声が。

「ギンコー、ギンコー」

同時に、キキーというママチャリのブレーキ音。私がいきなり道路に現れたので、びっくりして急ブレーキでもかけたのかと思ったのですが、私と自転車の通る道路までの距離は1メートル以上開いていて、その線は薄いことを推理できました。

「ギンコー、ギンコー」

相変わらずもの凄い剣幕で「ギンコー」と連呼するチャリの人。私に因縁でもつけてるのかと一瞬ひるみかけましたが、ちょっと冷静になって相手を確認しました。ペダルから上をゆっくり見上げていくと、相手は中年で頭の寂しげな白人さん。おそらく、ロシア人。名前がなんとかフとか言いそうな人。私の住む町は港町で、ロシアの方が結構住んでいます。

「ギンコー、ギンコー」

ここまでで、相手が何かをたずねていることを理解。ギンコー=銀行だろうと想像できるので、

「Oh! ギンコー、アレ」

と妙な日本語で目の前の銀行を指さしました。

「……オーぅ」

違う、と。お前喧嘩うっとんのかワレと言わんばかりの顔で首を振る彼。かなり怖い顔。

「ポストオフィス!」

どうやらギンコーではなく、ユービンキョクが目的地だったようで、私は通りの向こうを指し示しました。幸い、同じ通りに郵便局があったので、ゴーストレートとかターンレフトとか、考える手間が省けました。たぶん考えてもすんなりいかなかったでしょうが。

「ライト?」

私はlとrを聞き分けることができない(というか、そのロシア人(仮定)の発音も怪しい)のですが、道を聞いてるのだから左右のライトだと思い、確かにユービンキョクは道の右側にあります。私がイエーイエーと頷いたら、彼は何事もなかったかのように道の向こうへと走り出しました。

ねえ。あまり役に立たなかったからって、せめてお礼くらい言おうねイワノフさん(命名)。話しかけるときはギンコーじゃなくて、エクスキューズミーくらい言って欲しかったなイワノフさん(命名)。ついでに、道の反対側で、ちゃらんぽらんに返答する俺を苦笑していたリハビリセンター職員の佐々木(命名)、覚えてろよ。

まあ、たぶん、街に住むロシア人は、ここには英語の通じる人がほとんどいないことを経験的に知ってるんでしょうね。だから、まさに用件だけ、単語だけを強調して、たずねてきた。理にかなっているようないないような。でもやっぱり、礼節はきちんとね。民度低いとかいわれちゃうよ。